脳の遅延発達とアスペルガー症候群の混同

 一般の人は、まだまだ情報不足なのか、単純に脳の発達が遅いだけの正常な状態と、アスペルガー症候群などの区別がつかないようです。脳の発達が遅延する現象(delayed-development)について適切な情報を持っている人はあまりいない状況にあると感じるので紹介しておきます。


 このテーマを考えるうえで、まず最初に押さえておきたい最も重要なポイントは、脳の発達が遅れるのは悪いことではなく、人類の知能の発達の鍵を握っているという点です。チンパンジーと人間は99%遺伝子が同じにもかかわらず、思考能力が大きく異なります。染色体の数がチンパンジーは48で人は46なので、まったく同じとは言えないのですが、それでもほとんど同じ種類の動物と見てよさそうです。では、何がチンパンジーと人間の脳を決定的に異なるものにしているかというと、最大の違いは脳のサイズなどではなく、人間はチンパンジーの子供の脳の状態で成体になるという点です。つまり、チンパンジーから見れば、人間の脳は発達するのに非常に時間がかかり、遅延した幼くて若々しく柔軟性のある脳の状態のまま成長を終えるのです。この現象をネオテニー(neoteny)と呼ぶのですが、1920年にL・ボルクが「人類ネオテニー説」を提唱して以来、さまざまな研究が行われてきました。チンパンジーの幼形は人類と似ている点が多い、という発見からスタートして、多くの人がこの研究に携わってきた歴史があります。

 脳の発達が遅れる原因はさまざまなので、一概には言えないのですが、病的な場合を除いて、遺伝的な理由で遅延発達が見られる子供のほうが、早く脳が発達する子よりも、最終的な知能が高くなることが分かっています。最終的に知能が高くなる大器晩成型の人は、早く発達する人に比べて、前頭前皮質の発達のピークが、4年から5年も遅く現れるケースもあるのです。したがって、「脳の発達が遅れて、同年齢の他の子に比べて幼く見える子供は、頭が悪い」という、一般に広まっている科学的根拠のないただの思い込みは、半ば迷信に他なりません。また、「人間の脳は、正常な子ならば、ほぼ同じような時間経過で発達していく」という一般に広まっている思い込みも、科学的な裏付けとなる根拠がまったくない、ただの迷信に他ならないのです。実際に調査して明らかになってきた、「人間の脳の発達は、かなりの個体差が認められる」という事実を重視するなら、年齢別にクラスを編成して教育している、現在の学校の教育システムは、根拠のない迷信のうえに作られた、非科学的なものということになります。文部科学省は、学習カリキュラムを、人間の子供の脳の発育に合わせたものへと、改善していく必要があります。


 うちの一族の内家の者は、外家の者に比べて、脳が遅延発達することが知られています。というよりも、遅延状況を見て、内家の子として育てるか、外家の子として育てるかを、篩い分けているのです。一族の内家の子は、一般の日本人とは体質も脳の神経回路網も異なることが分かっています。私は一度も男性とお付き合いしたことも、出産の経験もありませんが、私の遺伝子を受け継ぐ子供は8人います。不妊症に悩む何組かの夫婦に対して、卵子を提供した結果です。一般的な女性ならば経験しなくてはならない、恋愛や夫婦生活や出産や育児などに時間を取られることなく、好きなことをやりながら、生物として生まれてきた「自分の子孫を増やす」という目的を達成できる、便利な世の中だと思います。ただし、私の遺伝子を受け継いだ子達は、揃いも揃って、普通の子供と同じように育てることが出来ない難しさを抱えています。だからこそ可愛いんですけどね。うちの一族の内家の人々の遺伝子は特殊なので、血が濃い子達は、必ずといってよいほど、脳の発達が遅延する傾向が現れます。

うちの一族は、非常に古風な変わった血統を伝えています。現在は、幾つかの神社を管理する古い家柄の体裁を取り、神楽を伝承する関係で、修験道などと神道が習合した文化を伝えています。一族のルーツは、故老からの伝承(つまり、お爺さんの昔話)によると、大陸の遊牧民族にあり、満州地域から日本へと東進した人々が信仰していた太陽神に仕える巫女(斎女)の一族だったと言い伝えられています。耀姫というニックネームは、太陽神に仕える斎女を神格化した女神の名前に由来します。神社に伝わる神事での斎女の役目は、1.禊をして、2.神楽鈴などを持って舞って、3.神憑りして、4.託宣することです。これを略式にしたものが、一般の人が神社に参拝する時に行う、1.手と口を洗い清めて、2.鈴を鳴らして、3.お祈りして、4.おみくじを引く、ものですね。略式は非常に簡単に、神社に行けばさっと済ませられる構成ですが、これを古くから伝承されているとおり本格的に行うと、かなりの時間と手間を必要とします。たとえば、厳寒期の禊は、神滝の滝つぼまで行って氷を割って、麻の平安装束の姿で水の中に全身を沈めて身を清める必要があります。寒中水泳のつもりで、普通の人がこれをやると、体温を奪われて低体温になって気を失い、二度と目覚めない可能性もあります。禊の次は神楽を舞うことになるのですが、これも普通の人には耐えられるものではありません。神社の御神体が甘南備山と定められていて、冬至の日の出に行う神事の場合には、積雪のある山の磐座(いわくら)まで登山する必要があります。日が登る時刻に合わせて、大地と一体になるため、力士と同じように裸足になって地面に直接足の裏をつけて神楽を舞わなければなりません。普通の体質の人が氷点下の山中でこれを行うと、凍傷になって足の指を切断しなくてはならない可能性もあります。太陽神に仕える斎女の一族は、高句麗道教の時代から約二千年間、代を重ねていくうちに、普通の人とは違う体質の遺伝子を持った人々で構成されるようになっていったので、平気で出来るのだと思います。一族の男衆も、修験道の厳しい荒行に耐え残った人々が代々厳選されて来たので、一般の人とは異なる遺伝的資質を持つ方向に、品種改良されていったようです。一族の中にも個体差があり、血が濃く現れている子は内家で育てられ、そうでない子は外家に回されます。私の母はヨーロッパで育ったハーフで、私にも1/4西洋の血が入っているのですが、父に言わせると「純血種よりも雑種のほうが強くて能力が高い」結果になったようです。


 一族の内家の子達は、這って動けるようになるのも、立ち上がって歩けるようになるのも、外家の子達に比べて極端に遅いことが分かっています。ところが、歩けるようになるのが遅い子のほうが、最終的には運動神経がより発達することも、経験的に言われています。同じことを学習するまでに、時間がかかればかかるほど経験量は豊富になるので、応用面での強さを発揮するのです。

 私は、人前では体を動かさず顔の表情も変えずに、じっと長時間座っているように躾けられたので、あまり問題視されませんでしたが、8人の私の子達は一般の家庭で育てられているので、そこまでの躾はされていません。揃いも揃って好奇心が旺盛で、授業中まるで落ち着きがないと言われています。注意力が散漫で行動が無計画で衝動的。自己制御力が低く自分勝手で他人の心の痛みなどをあまり理解しない社会性のなさを示します。授業中に突然立ち上がって勝手に話しながら歩き出すなど、ADHDの子と変わらないような行動を取ります。人真似は得意でも、どうしていいのか分からなくなると、じっと指示を待って動かないようなところもあります。賢そうな一面を見せるのですが、同級生に比べると、極端に社会性の面での幼さが目に付きます。素人目には発達障害そのものに見えるでしょう。ところが、ほとんどの子が数学が得意で、なかには5歳で高校で教えているレベルの数学が解けるようになった子もいるのですから、一概に知能が低いと受け取る人はいません。もちろん、12・13歳まで成長して脳の発達のピークを迎える頃には、これらすべての問題が解消されて、高い問題解決能力を示すようになる筈です。

 一族の内家の子達の間に共通して遅延発達が起こる原因について、ある程度分かってきています。人間の脳は、胎児の時期に神経細胞が大量に作られてから、自然死(アポトーシス)によって大量に死滅して必要とされる数に整理され、次にシナプスが大量に作られてから、必要とされる数まで減少するという経過をたどって、使用可能な神経回路網が形成されます。脳細胞が積極的に淘汰されて必要な量に落ち着く過程で、脳細胞の自然死をコントロールしている部分に、一般の人とは遺伝的な差異があるらしく、脳細胞が普通の人よりも数多く生き残るようなのです。その結果、普通の人よりも神経細胞シナプスの数も多くなってしまうため、神経回路網の整理整頓が遅れて、遅延発達する傾向を示す可能性を示唆するデータを得ています。最終的に、一般の人とは脳の配線が異なったものになるので、普通の人が考えないような発想を持つ傾向を示すようです。このような脳は発明家に向いているらしく、祖父・父・私と、三代続いた発明家の家系になっている一面もあります。


 ここまで読み進んだ方は、もうお分かりと思いますが、脳の遅延発達は、人類の知能の進化と非常に密接な関係があります。そして、現在も人類の脳は進化発展していく途上にあって、脳の発達速度は揺れ動いているのです。知能の発達が遅れている子、イコール病的な駄目な子という短絡的な発想は成り立たないケースもあるのです。言うまでもないことですが、知能の発達は、生後の教育環境によって大きく違ってきます。アスペルガー症候群と混同して間違った扱いをしていると、大きく伸びる可能性の芽を摘むことにもなりかねません。脳が遅延発達する子に対しては、一般の子とは異なる教育カリキュラムが必要です。うちの一族には、遅延発達する子専用の特別な教育方法が、高句麗道教の時代から約二千年の歴史の中で培われて伝承されています。内家の子には必ず養育係(守り役)が一人ずつついて面倒を見るシステムになっているのも、一人一人で脳の発達速度が異なり、それに合わせた対応をする必要があるからです。

 一般的な現行の教育システムでは、年齢によってクラス編成を行って画一的な教育を施していますが、望ましいこととは言えないと思います。「健康な人の脳は、年齢に合わせて一定の速度で同じように発達する」という、まったく根拠のない妄信から生まれた教育制度だと思います。人類の脳が進化していく可能性の芽を摘んで来たと見て間違いないでしょう。進化の可能性を切り拓くために、一族が伝承してきたノウハウが生かせる場を作れないかと考えています。