映画『(500)日のサマー』に見る現代人の恋愛行動の問題点。

現代人は、恋愛を友達づきあいと、どこかで錯覚しているようなところがあります。お互いの嗜好や趣味の一致を見つけた瞬間、親近感が発生して、ラブストーリーの発端となるケースはよく見られます。でも、結末はというと、性格の不一致を理由に分かれてしまうパターンが多いようです。

人間の深層心理の設計を行っている神様(遺伝子情報系)の視点から、恋愛の心理について解説するなら、男性は支配欲と服従心を、女性は保護欲と依存心を、お互いに対して求めるべきなのです。絶対に横の心理関係、つまり、友達や兄妹の心理関係を主軸にした恋愛関係を構築すべきではありません。うまくいくはずがないからです。本来、男性と女性では、趣味や物を考える視点がまるで違います。少し考えれば分かることですが、レースや刺繍を編むことが好きな男性はまずいないし、エステの話で盛り上がれる男性もまずいません。逆に、野蛮なスポーツや、イージス艦の兵装や、二次元の美少女の絵のコレクションについて話すのが好きな女性もまずいません。男女がお互いの趣味や嗜好を合わせようとしても、うまくいくわけがないことは、最初から確定しているのです。恋愛に、嗜好を同じくする友達付き合いの要素を持ち込んで、それを主軸として心の結び付きを強固にしていこうとすると、絶対にうまくいかずに、破局することが確定しています。現代の男女は、少し考えれば分かる、この点をまるで理解していないようです。

性格の不一致で分かれたという話を聞くとき、何が一致しなかったのか列挙してもらうと、実際には性格ではなくて、男女の性差による物事の考え方や嗜好の食い違いを指摘している場合がほとんどです。「あなたは男の人と付き合いたかったの? それとも好みや趣味が一致する友達が欲しかったの?」と質問したあとで、「あなたが今指摘したポイントで、好みや趣味が一致する男の人っていないと思う。」と指摘すると、「よく考えてみると、それもそうね」って反応が帰ってくる場合が多いのです。女性が本来求めているのは、男らしくて頼りがいがある男性です。嗜好や趣味が一致する、まるで女性のようなナヨナヨした男性像とは、大きく違うものを求めている筈です。女性本来求めているのは、男らしくて頼りがいのある男性との間に、保護欲と依存心という、縦型の心のキャッチボールを繰り返して、心の絆を深めていくことです。男性の側から見た恋愛の心理も同様で、支配欲と服従心という、縦型の心のキャッチボールを繰り返して、心の絆を深めていくことであって、横型の、お友達の心理関係など、女性に求めてはいけません。

恋愛の心理と、友情の心理を混同した、間違ったロジックが無意識のうちに働いてしまうのは、現代人の深層心理が動物園現象によって作動不良を起こしているからです。ナヨナヨした女趣味の男性や、男勝りの趣味を持つ女性は、恋愛の対象にすることが難しい。これはイメージのうえでは分かりきっていることです。それなのに、実質的な付き合いの中で、嗜好や趣味の一致を求める、間違った理屈に合わないことをしているのです。


恋愛の中には、男性側が主導権を握る、支配と服従の心理と、女性側が主導権を握るの保護と依存の心理の、心のキャッチボールが存在します。人間は、保護欲と依存心という、保育的な心のキャッチボールを、主に母親との心理的交流から学んでいきます。逆に、支配欲と服従心という、教育的な心のキャッチボールは、父親との心理的交流を通して学ぶ傾向があります。家庭の中でこれらの心理をうまく学んで、大人になったら、恋愛の中で応用的に活用する形を取るのです。したがって、子供の頃のエンパシー教育が非常に重要な意味を持ちます。こういった心のキャッチボールによって、心の絆を深めていくことがが正しく出来ないまま、友達付き合いのような恋愛関係しか築けない現代人は、家庭内での対人関係に必須の心理の教育に失敗していることになります。

男性は美しくて可愛らしい女性を前にして、恋の魔法にかかるとき、保護欲を向けていきます。女性側が、男性の優しさに対して、依存心を向ければ、心のキャッチボールが成立します。保護と依存の心理の主導権は、可愛らしい魅力を持っている女性側にあり、男性の心を奪って虜にする形を取ります。対して、女性は男らしい男性を前にして、恋の魔法にかかるとき、男性が見せる征服欲に魅力を感じて、服従心を向ければ、心のキャッチボールが成立します。支配と服従の心理の主導権は、男らしい魅力を持っている男性側にあり、女性の体の自由を奪って虜にする形を取ります。

支配と服従、保護と依存の心理関係は、どちらも、父親と子供、母親と子供の間に成立する、縦型の心理関係です。これに対して、兄弟や友達付き合いの間に生まれるのは、仲間意識やライバル心といった、横型の心理関係です。たしかに男女の間にも仲間意識の連帯感は必要ですが、兄妹のような心理関係の絆が深まることは、良い結果に繋がりません。日本では、子供の前で父親や母親が、「お父さん」「お母さん」と自分達のことを呼び合いますが、これは兄妹のような心理関係を形成してしまって、他人ではなくなるため、近親相姦のようなイメージを形成して、セックスレスの夫婦関係を作ってしまうこともあるのです。このことからも、あくまでも男女の恋愛感情は、支配と服従、保護と依存を主軸にすべきだということが分かります。

本来、恋愛感情は自然に無意識のうちに深層心理が作り出すもので、意識して、こういうシチュエーションではこの心理を使うべきだ、なんて考える必要のあるものではない筈です。それなのに、現代人の深層心理が正しく作動せず、理屈で考えなくてはならなくなっているのは、『アスペルガー症候群の勘違いと、深層心理の教育の関係 』http://d.hatena.ne.jp/mayumi_charron/20100124/1264296530の中で明らかにした、動物園現象の結果です。現代の人工的な不自然な生活環境によって歪んでしまったライフスタイルは、男女が互いを愛し合って幸せな恋愛生活をおくることすら妨げてしまっているのが現実なのです。

女性が女らしい体の魅力をアピールして、男性に依存心を向けることで、男性の心を奪って、保護欲を引き出そうとするのは、人間の脳の設計図から見ると、自然な正しいことです。ところが、風紀を重んじる教育が施されている現代社会では、女性が男性に対して体の魅力を見せることに、制限をかける文明社会のルールが形成されているので、正常なコミュニケーションが成立し辛くなっている面があります。もっと深刻なのは、男性が男らしい志の魅力をアピールして、女性に支配欲を向けることで、女性の服従心を引き出そうとする行為が、うまく成立しない点です。人間の脳の設計図から見ると、教育的を目的とする、支配と服従の心理の成立は自然で正しいことなのです。しかし、民主主義の自由平等の精神の教育によって、男女平等の考え方が正しいとされる現代社会では、男性が男らしく女性に対して支配欲を向けて、恋愛感情をリードする余地を奪っています。女性が女性らしい服従心を示して、男性に心理的に依存する正常なコミュニケーションも、成立し辛い不自然な状況を作っています。支配と服従の心理は本来、親が子供を教育のために用意されているものです。親が教えるとおり、命令に従った行動を取ることで、学習は進むものです。逆らったり無視していたら、何も学ぶことは出来ません。支配欲と服従心の心のキャッチボールは、教育に不可欠です。これは、自由主義の国アメリカの軍隊などでも、徹底的に教え込まれることですね。ところが、封建制度の社会の搾取や暴力と関連付けて、悪いイメージで捉える偏った見方をする悪慣習を定着させてしまったため、父親が子供を教育することや、男性が女性をリードすることすら、否定しかねない望ましくない心理的状況が形成されているようです。

男性が女性に対して、支配欲を向けて服従心を要求すると男女不平等になるとか、男性が力で女性の体を支配するのは男女不平等という発想は、物事の一面しか見ていない、西洋的な偏った発想にすぎません。現実には、男性が女性の体の自由を奪うより先に、女性が男性の心の自由を奪うように、人間の深層心理は作られています。心の自由を奪っている女性のほうが優位、と見る考え方も存在可能なのに、それを無視して、男性が支配欲を持って服従心を引き出そうとするから男尊女卑で不平等と考えるのは間違っていると思います。正常な原初的な社会では、女性の美しい魅力に心の自由を奪われて、保護欲を向けた男性が、優しい気持ちで愛情をこめて女性の体を支配しようとするとき、女性の意に沿わない乱暴を働く形になることはありません。ドメスティックバイオレンスといった形で問題行動が浮上して、うまく恋愛関係が築けないとすれば、深層心理が作動不良を起こしていると考えるのが妥当でしょう。


それから、現代の男性は、女性の巣作り行動に関連した深層心理についての認識を、ごっそり欠いている場合が多いようです。女性が本能的に恋愛関係に疑問を感じて、男性から離れていく原因の多くが、男性が女性の巣作り行動の本質を理解しておらず、自分の嗜好を軸にした身勝手な友達付き合いのようなデートに夢中になってしまうことにあるようです。男性をセックスフレンドとして見ることは出来ても、配偶者として見ることが出来ない状況を作ってしまっては、将来性がないから分かれるという判断が働いても仕方がないでしょう。

女性は、男性のようなその場限りの恋を望んでいるケースは少ないので、ある程度警戒感を持って男性に接するのが普通です。最初は素っ気ない態度を取って、ガードが固い様子を見せます。その心のバリアーを尊重しながら、ある程度親切で親しげな態度を示していると、「この人って私のことが好きなの?」という反応があります。そのタイミングを見計らって、いきなり他に関心ごとが移ったかのような態度を取ると、「あれっ?」って思った瞬間、自分が相手の男性を好きになりかけていると実感するのが、女という生き物です。男性に対して女性が所有欲を感じたとき、恋愛を意識するのです。そうなると、女性の方から積極的にアピールする行動を示すようになることも珍しくありません。

女性は、ムードが高まってキスしたら、セックスしたと同義に深層心理で受け止めるところがあるので、キスをしてムードが良ければ、そのままセックスもオーケーという流れが普通です。でも、恋は熱しやすくて冷めやすい部分があるので、セックスしたあとも、男性がうまくムードを作って引っ張っていかないといけません。そこで重要なのは、言葉ではなくエンパシー(共感)を用いた心身一体のコミュニケーションです。恋をした女性は、必要最小限のことしか考えられなくなって、受動的な待機状態に入っている時期があります。それを見計らって、男性の側から将来設計などの夢を提示していくと、どんどん受動的に頭にインプットされて、二人の夢としてイメージが膨らんでいくのです。そうして、この人と一緒に人生を歩んでいってもいいかなーって思うようになるのです。そうなるように脳の構造が出来上がっているんですね。

でも、そういう展開がまるでないと、やがて恋愛のドキドキ感が薄れていくにしたがって、「この人は私の理想とは違う。私のことを大事に思ってるの? 体だけが目的なの? この男性のハートを掴むのに失敗したかもしれない。」そう感じる方向に、深層心理の次元でロジックが働いていってしまうことになります。男性とのセックスが終わると、女性は巣作りをするための本能的な深層心理が働き始めます。この深層心理と呼応する現代社会の要素は、家庭設計です。本気で付き合って、最終的に結婚を望んでいるならば、女性が恋の魔法にかかって必要最低限のことしか考えられない受動的な脳のモードになっているときに、「どんなところに棲みたい?」「子供は何人欲しい?」といった家庭設計の話をインプットして、上手に巣作りの本能をリードしてあげることで、男性の人生設計の夢と女性の巣作り行動の夢を摺り合わせていくことが可能になるのです。もちろん、男性の側からは支配と服従の心のキャッチボールになるように話しかけ、女性の側は保護と依存の心のキャッチボールになるように応じる必要があります。男女の心の絆は、そうして深まるように出来ているのですから。この作業をまともにせずに、ただ友達付き合いのようなデートだけ繰り返していると、女性は心理的な巣作り行動に入ることが出来ないため、本能的な深層心理の部分で不満を抱えていき、自分の体だけが目的なの? という望ましくない判断が無意識のうちに働きはじめて、恋愛感情が冷めていってしまうのも早いのです。

女性は、そういう判断を、一方的な視点から無意識のうちにして、いきなり別れ話を持ち出すわけではなく、男性のリードが不適切だと、打診的態度を取る時期があるんですよね。その危険信号を感じ取ったとき、男性が自分の個性的な魅力をアピールしようと、嗜好や趣味を女性に押し付けるようなデートを企画したりすると、たいていの場合、結果は最悪です。お友達感覚のアピールをいくら行っても、恋愛感情は主に縦型の心理関係で成り立っているものなので、補強にならず、男女の嗜好の違いやものの見方の差だけが強調されていき、無駄に終わるのです。女性が本能的に求めていることとまるで噛み合わないので、破局に向かって一直線になってしまいます。

女性が不満そうな落ち着きのない態度で、打診的な態度を取っているときに、男性がやるべきことは、何も考えずに優しくキスをしてそっと抱き寄せて、こうしているのが僕にとって一番幸せなんだよって態度を取って、生活感を伝えることです。女性は、自分が大事にされていると感じられる、幸せなひと時の満ち足りた充実感を、一番重要視するものです。自分の生活環境を、その充実感を中心にイメージして築いていこうとするので、巣作り行動がうまく成立するようにリードして環境を整えさえすればいいのです。現代人の女性は、「いつか素敵な王子様が現れて、私をどこかにさらっていくの」という夢を思い描くことが多いものの、それだけが結婚のスタイルではないんですよね。西洋式の、新居を構える略奪結婚型(核家族型)の家庭設計だけでなく、女性を生家に置いておく和風の通い婚という、大家族のスタイルもアリだと思います。単身赴任になるようなら、彼女が住んでいる場所を中心に据えた巣作り行動ができるように、夢を提示していくことも選択肢の内ですね。男性にとっては、略奪婚型より通い婚型のほうが、負担が少なくて楽かもしれません。うちは通い婚型の母系の継承をしていく古風な家柄を今でも維持しています。

というわけで、現代人の恋愛行動は、恋愛の主軸となる、支配と服従・保護と依存の心の絆を深めるのではなく、友情の心の絆を育てて繋がろうとする、間違ったものになっているため、本来なら充実する筈の心理関係が希薄なままになって、本当に愛し合う喜びを得られずにいるケースが多いようです。深層心理の作動不良を解消し、恋愛に関する認識上の誤りを軌道修正して、遺伝子情報系が人間という種を当初設計したときに予定していた、標準状態の原初的な文化形態に沿った、本物の幸福な恋愛を手に入れられる社会システムと心の文化を再構築する必要があると思います。