風邪やインフルエンザに対抗するアロマテラピーと袖炉のお話

今年も風邪やインフルエンザが流行する季節になってきました。私立の学園の理事をしているので、学級閉鎖が起こらないように気を配っています。アロマテラピーの分野の研究が進んで、細菌やウイルスに対して植物が持つ香りの成分がかなり有効なことが分かってきています。試しにグーグルでネット検索してみたら、上位にアロマスターというサイトがヒットしました。抗菌・坑ウイルス作用を持った香りを病院施設内に散布するアロマディフューザーを販売しているところみたいです。こういったものを用いて風邪やインフルエンザその他の感染予防に積極的に取り組む病院や介護施設が増えてきているみたいです。じつは、メーカーは異なりますが、うちの大学病院や学園にも、必要に応じて似たような装置が配置されていて、患者や子供達を守るシステムが機能しています。

樹木やハーブが持つ良い香りが、悪い菌やウイルスの活動を阻止してくれるのは、それら精油成分は、植物が身を守るために生産している物質だからです。殺菌・抗菌作用については一般の人でも理解は容易だと思いますが、ウイルスの活動を止めるメカニズムのほうは、ちょっと分かりにくいと思います。じつはウイルスって、他の生物の細胞の中に寄生していないと、増えることが出来ないんですよね。人から人へと感染するときは、宿主の細胞から出ないといけません。宿主から飛び出したときに無防備だと、紫外線などの作用であっという間に壊れてしまって、活動できなくなるウイルスもいます。そこで、インフルエンザウイルスなどは一工夫して、糖タンパクの殻作って身を守るようになっています。その殻には、再び人の体に入り込むときに、免疫系をすり抜ける働きをしたり、細胞の壁を突破して内部に侵入するための、さまざまな機能が搭載されています。空気中を漂う植物の香りの成分がウイルスの殻に吸着すると、感染に必要なそれらの機能が使えなくなってしまうため、ウイルスは感染力を失うのです。

近年流行しているアロマセラピーは、西洋のハーブや香水を用いた古い民間療法から生まれてきたものです。昔から、ローズマリーなどのハーブには殺菌作用があることが知られていました。もともとは、お肉の臭みを取り除く香り付けとして使っていたのでしょう。やがて、燻製などの保存食を作るときに、ハーブや調味料が含まれた液に漬けるようにすると、お肉が痛みにくくなることが経験的に知られるようになり、いろんな香りを持つ植物の効果が試されていき、製造ノウハウの発達に伴って、殺菌作用を持つハーブに関する知識も豊かになっていったようです。植物の香りには病魔を退ける、魔除けの力が備わっていると信じられ、香水を聖水として使うようになっていったのも、長年培われた経験からでしょう。つまり、香水の聖水って、根拠がないただの迷信とはちょっと違うみたいです。

じつは日本のお風呂の風習も、アロマセラピーに近い知識から生まれてきたものです。風呂ってお湯に入るものだと思っている現代人が多いのですが、古い時代の日本のお風呂は、湯船につかるものではなく、蒸し風呂だったようなのです。だから、風呂という文字には、水に関連した要素が含まれていませんよね。蒸し風呂ですから、熱した石の上に殺菌作用を持つ成分をたくさん含んだ生木や、適当な海草を乗せて、噴出すフィトンチッドの蒸気を浴びるようにしていたのです。一種森林浴にも近いものですね。今でも、ヒノキの湯船を好む人は多いようです。ヒノキの良い香りには、抗菌作用があるため風呂桶が腐りにくいだけでなく、吸入すると免疫機能をアップする効果も報告されています。今でもお正月に神社やお寺に初詣に行くと、煙が立ち昇る大きな火鉢が置いてあるのを目にすることがあると思います。あれが、古い時代のお風呂の名残なのです。もともと、お風呂って服を着たまま大勢の人が一緒に入るものだったんですよね。うちの神社に関連する神道の修行用の施設には、昔ながらの湯帷子を着たまま入る蒸し風呂が存在します。冷たい井戸水で禊をしたあと、体温が下がったままの状態では風邪を引く可能性もあるからなのでしょう。蒸し風呂で体に良い香りを纏いながら暖を取るようになっているのです。もちろん、その間もイメージトレーニングを行ないます。神社やお寺で、大きな火鉢から出る煙を体に浴びると、一年間無病息災でいられるって言われています。一回浴びた程度で本当に一年間効果が持続するかは疑問があるけど、もしも参拝客の中に、風邪を引いている人がいたとして、咳やくしゃみと一緒に飛び出した菌はどうなるでしょう? 殺菌されるか、活力が落ちて感染力が弱くなった状態で、他の人の体内に吸入されるので、免疫力をつけるのに役立つ働きをしてくれることもあるようです。そうすれば、風邪を引かない効果が、ある程度の期間持続することが、期待できないわけではないでしょう。予防医学の観点から設置されている医療用の器具ではないので、データを集める人は誰もいませんが、可能性は十分にあります。焚かれる護摩から出てくる、抗菌・坑ウイルス作用を持った煙のなかから、有効成分を取り出して、それを散布する冒頭で紹介したようなアロマディフューザーが作られているんですよね。神社などに伝わってきた伝統的な技術が、科学的に原理を解明されて、21世紀に復活したと言うことも出来るでしょう。

日本に伝わる民間療法の中で、迷信染みていると一般に認識されているものに、加持祈祷があります。病人のいる部屋に祭壇を設けて、大量の護摩を焚いて祈祷するのですが、あれって本当に迷信だと思いますか? だって、樹木から出る抗菌・坑ウイルス作用を持った精油成分が、病室を満たすんですよ? もうお分かりの方が多いと思いますが、健康法として普及していた蒸し風呂を、病室に持ち込んだだけで、現代の病院で行なわれている感染対策の一つと、原理は同じと考えるのが妥当でしょう。アロマセラピーの知識がまだ十分でなかった20世紀の人々が、勝手に非科学的な迷信と思い込んで、色眼鏡で見ていただけのようです。さらに祈祷ですが、じつは人間の脳から免疫系に対して出されている指令は、好きな歌を聴いたりすると調整されることが、身心医学の発達とともに明らかになってきています。だから、祈祷の効果を信じている人々が聞けば、病は気からの部分に暗示として作用して、免疫活性を改善することも可能なのです。ただし、古い宗教の文化と馴染みが薄い現代人の感覚では、祈祷の言葉がうるさく感じられることもあるでしょう。そういう人は、自分が好きな流行歌を歌ったほうが、はるかに気分が良くなって効果的だと思うんですよね。心療内科の教授にデータを録らせてみたところ、好きな音楽のほうが脳から出されるホルモンなどの命令が改善されることが分かっています。だから私は、知人の病室にお見舞いに行ったら、その人が好きな歌を歌ってあげるようにしています。耀姫の言霊を響かせる声は催眠暗示効果が非常に高いのですが、病院で超音波成分が豊富な声を出すと、寝ている他の病人を起こしてしまうので、静かに鼻歌程度の音量で歌うだけです。それでも、医薬品ではちっとも反応がなかくて、内科医がどうしたものかと思案していたのに、歌のパワーで免疫活性が改善されるデータが得られて、助かったって言われることもあります。もちろん、神社に祭られている耀姫に神がかりしたトランス状態で私が歌う場合だけ効果が現われるわけではなく、普通の人が自分で好きな歌を歌っても、効果があることが確認されています。つまり本来は、宗教の文化とはまったく無関係な現象です。このような形で、伝承されてきた日本の文化の良さが、科学的視点から解明されて、21世紀にふさわしい新しいライフスタイルに姿を変えて、再び普及していく動きが見られます。

一昨日、ある講演会の会場で、あまりにも激しく繰り返し咳き込んでいる人がいたので、休憩時間に私が廊下に出て袖炉(服の中に入れておく携帯香炉)に点火していたら、建物の管理者が来て、「他の人からクレームが出たからやめて欲しい」と言われました。そんな認識不足の人がこの集まりにいるの? と私と同じ疑問を感じた付き人が「誰ですか?」と尋ねても返事がなく、けっきょくクレームが出た話は嘘だったことが判明しました。管理者は政治家からかかってきた電話に真っ青になって謝ってましたが、そのあとで、私のところに謝罪に来ようとしました。付き人が立ち塞がって「これ以上の無礼は許されません」と一言で追い払いました。タバコの煙が有害なことは、誰もが認識していますが、日本の香道の健康効果は、一般の人にまだ十分理解されていないため、抗菌・坑ウイルス作用を発揮することや、浴びると健康になることは、ある程度予備知識を持った人でないと分からないようです。その日の講演は、感染症対策についての専門的なものだったので、アロマテラピーの効果について知らない人は、会場にいないはずでした。したがって、クレームが出る可能性はなかったのです。咳が止まらなかった人は、袖炉を燻らせていることを管理者とのやりとりから知って、私のところに来て、女狩衣の肩口の隙間から立ち昇る香りを吸って、落ち着きを取り戻していました。もちろん、手かざしして温感を与えてあげたことも、相乗効果として働いたようです。

私は子供の頃から一度も風邪を引いたことがありません。小学校・中学校と私がいるクラスだけは学級閉鎖になることがなく、しかも私の席を中心に欠席者が出ないことが、同級生の間で知られていました。その理由は、常に袖炉を携帯して香りを燻らせ、香木の扇子を用いて身の周りを抗菌・坑ウイルス作用のあるフィトンチッドで満たしていたからでしょう。愛用の扇子に使われている香木は、中国雲南省の高山にしか生えない樹齢数千年の仙樹で、中国の皇帝から日本の朝廷に贈られたものとされています。貴族に下げ渡され、応仁の乱で京都が焼け野が原になったときに、疎開してきた貴族が神社に奉納して、神宝になったとする記録が残っています。後世になってそれを薄く削って扇子の形に仕立てたものです。香りの効果は、薄く削って組み立ててから3年から5年なので、扇子自体はそう古いものではありません。削りかすは練り物の燻物に混ぜ込まれて、袖炉で焚かれます。

本来の香木の使い方は、聖徳太子の絵などで木笏を手に持っている姿から理解できると思います。メモ用紙兼アロマセラピーのアイテムとして使われていたようです。メモの数が増えると短冊のように紐で束ねて使うようになり、やがて扇子が日本で発明されたとされています。昔の人々が、香木に対してどのような認識を持っていたかは、「うちわ」という言葉の起原を辿れば見えてきます。もともと中国の皇帝を仰ぐための、巨大な扇だったようです。虫が嫌う香木で作られた扇を用いることで、ハエや蚊などの虫から皇帝を守っていたようです。そのフィトンチッドが、アロマテラピーの効果を持ち、病魔を寄せ付けないことが経験的に知られるようになっていったようです。日本に扇が伝来したときに、虫や病魔を討ち払うアイテムと説明されたので、討ち払うを短縮してうちわと呼ばれるようになったのです。

私が愛用している扇子に使われている雲南省産の香木は、今ではワシントン条約で輸出が制限されているらしいのですが、抗がん剤に使える成分なども検出されているので、それなりの効果を発揮してくれているようです。小学校・中学校と一緒に過ごしていた同級生達は、私の周囲だけ風邪を引いて休む子がいないことを、しだいに意識するようになっていきました。神社の娘だから、何か見えないバリアーか結界のようなものが存在しているのだろうと、薄々思っていたようです。中学のときに、どうして私の周囲だけ風邪を引かないのか興味を示した教師がいて話題になったので、私がうちわの由来を説明したことで、それまで神秘のベールに包まれていた見えないバリアーの正体を同級生達が知るところとなりました。私が片時も手放さずに動かしている扇子が、雅な雰囲気を作り出すお嬢様アイテムではなく、抗菌・抗ウイルス作用を持つ精油が正体の、物理的な見えない結界を形成していることを知って、あっと驚いたようです。神社で売られている無病息災の木のお守りも良い香りがするという話が校内に広まって、受験生を中心に木のお守りを買い求める動きが生まれ、その日のうちに完売してしまいました。

神社で売られている香木のお守りから出るフィトンチッドの量は、たいしたものではないので、予防医学の観点から見て、本当に効果があるかは、やや疑問符が付きます。今ではアロマディフューザーがあるので、無病息災のお守りが病魔を遮る結界を生み出す働きを科学的に調べようとする人はいません。お守りって、基本的には、精神を強くするための心の支えとなるアイテムです。だから、お守りの香りは、精神に作用する目的で付けられていると考えるべきです。東南アジアの国々で流行している嗅ぎ薬程度には、機能するでしょう。実際に、フィトンチッドの対病魔結界を形成するときは、扇子だけでなく、袖炉から出る香りの成分も、かなりの比重を占めています。もしも木のお守りや木笏だけで十分なら、わざわざ携帯香炉を衣類の中に入れて持ち歩く風習は生まれなかったでしょう。袖炉は、袖やポケットの中で転がってどんな方向を向いても、常に燻炉が上を向くように龕灯(がんとう)返しの仕掛けが入っています。七宝焼きの袖炉の例はここにありますが、愛用しているものはもっと構造が複雑で、たとえ大きな衝撃が加わっても炭団の火がこぼれて飛び散らない安全な構造になっています。というのは、戦国時代の日本で主に水軍が用いた焙烙玉(ほうろくだま)という名前の手榴弾の導火線に点火する携帯用の火種としても使われていたからです。弾薬を積んだ揺れる軍船の中で、ちょっとしたことで火が飛び散ったら、危なくてしかたありませんよね。薫法についてはここのサイトに情報があります。ただし、このページのグラフのように短時間で温度が下がることはなく、3時間程度香りが出続ける仕組みになっています。愛用の銀製の袖炉は、神社の宝物蔵にある古いものをベースに父が図面を起こして、親戚の飾り職人が作った透かし彫りの球に、私が有線七宝の装飾を施したものです。洋装のときは袖ではなくて、スカートの下に履いて適度な膨らみを持たせる働きをするペティコート(アンダースカート)のポケットに入れています。

今年も風邪やインフルエンザが流行する季節になってきたので、学園内のアロマディフューザーの総点検を行なっています。でも、学校にいくらフィトンチッドのバリアーを張っても、通学のバスや電車の中で病気の人と接していれば、感染する可能性がありますよね。かといって、私のように、神社に伝わる古い慣習に従って、昔ながらの袖炉を持ち歩くのは、一般の生徒にとって負担になります。そこで、指定した種類の香油を染み込ませた木の板を裏側に仕込んだネクタイやリボンを着用することになっています。みんながバラバラの香りを身に付けると、それが混ざって凄い匂いになることがあるので、学校側で成分を指定しています。そうそう、このような話を聞くと、ネクタイやハンカチなどの布に、直接アロマテラピー用の精油を染み込ませて使おうとする人がいますが、これは危険です。エステティックサロンで衣類やタオルが自然発火を起こす事故が続発し、問題となったことがあります。精油の中に含まれる不飽和脂肪酸などが重合を起こして酸化熱が発生し、繊維の断熱効果によって熱が蓄積して発火点に至ったことが原因とされています。乾燥機にかけて反応が加速して発火点まで温度が上昇して自然発火したケースもあるようです。揮発性の高い植物の油は、比較的低温で空気中の酸素と化学的に結びつく反応が起こりやすく、自然発火して燃えることを絶対に忘れてはいけません。

ネクタイというアイテムは、現在では装飾的な意味が強いようですが、もともとはもっと幅が広い、首を保護する布だったんですよね。喉仏のところにあるリンパ腺の温度が下がる状態が続くと、免疫細胞の活力が低下して風邪を引きやすくなるので、本当は常時薄い布で覆って冷たい風が当たらないように喉を守る使い方をされていたようです。NHKの有名なアナウンサーなども、テレビに映らないときは、薄布を首に巻いているようです。本当は、長時間屋外で寒い風に当たりながら獲物を追跡する狩りをしなければならない成人男性は、喉仏が冷えないようにヒゲが生えているのですが、現代人は何を勘違いしたのかこれを剃ってしまいますから、ヒゲのない子供のようにみえる幼態化したつまらないファッションを好む男性も、女性と同じように首に薄布を巻いていたほうが良いのです。ただ、そうすると同性愛者のファッションのように受け取る人もいるため、学校の制服として採用するわけにはいきません。そこで、代わりにネクタイやリボンの裏側に仕込む木片に、精油成分を染み込ませて発散させる方法が採られているのです。似たような発想で作られた市販のものとして、殺菌力が強いユーカリのエキスなどを主成分とする、胸に塗る風邪薬ヴィックス・ヴェポラップがあります。体で温められた精油成分が漂って吸入されることで、風邪の症状を緩和する効果がうたわれています。でも、残念ながら予防医学の観点から作られたものではないようです。日本はお守りを持ったりお風呂に入るといった、予防する発想からさまざまな風習やアイテムが発達してきたのに対して、西洋は治療する発想が中心になっているような印象を受けます。アロマディフューザーが病院や介護施設に普及して、予防医学が発達していく動きが見られるので、今後は違ってくると思いますけどね。

私が使っている袖炉用の燻物は、一般の精油とはまったく違う性質のもので、180度ぐらいの温度で香りを放出するようになっています。これを携帯懐炉などで代用するアイディアもあるのですが、やはり持ち歩くのはややこしいと思います。開放的な和装と違って、気密性が高い洋服の中に袖炉を入れると、場合によっては酸素不足になって、毒性が強い一酸化炭素が服の中に発生する可能性もありますからね。私のペティコートのポケットは、汗が発散しやすい通気性の良い素材で出来ているし、スカートは開放的な構造なので、まったく問題がありませんけどね。

最近、充電式カイロとしてエネループ・カイロが市販されているので、これと精油を染み込ませた木札のお守りを組み合わせて、即席の携帯型アロマディフューザーとして使う人もいるようです。神社で売られている無病息災のお守りが、古い伝統的なスタイルから離れて、ハイテクと組み合わされた新たしい感染予防アイテムとして復活する動きが見られるようです。すぐに精油成分が風で飛ぶ、服の外に露出したネクタイやリボンよりも、服の中に一定時間適度な濃度で滞留しながら、体温であたたまった空気と一緒に首筋の隙間から周囲にフィトンチッドが徐々に発散していく充電式携帯型アロマディフューザーのほうが、良い効果が期待できると思います。新しいライフスタイルですから、現代人の創意工夫でどのような推移を辿るのか、見ていて楽しみです。もちろん、私の普段の服装は、女狩衣に一本刃の高下駄の姿ですから、昔ながらの袖炉と仙樹で作られた扇子の組み合わせという、平安の国風文化の時代にタイムスリップしたような古風なスタイルのままですけどね。