量子脳理論とポラリトロニック・デバイス

 私が最近どんな研究に興味を持っているのか、できるだけ一般の方にも分かるように丁寧に書き進めようと思っていたのですが、どうやら、中学・高校の子供でも読めるように、易しく書くことが難しいテーマのようです。難解な言葉が並ぶ文章になっていると思います。面白い研究をやってるね、ぐらいに思って、読み飛ばしてください。

 巷では、ブレイン・マシン・インターフェイス(人の脳とコンピューターを繋ぐ機械)の入力装置として、8の字コイルの電磁石を用いた、経頭蓋磁気刺装置が注目を集めています。この装置を使っていろんな研究成果が得られていますが、頭の周囲に設置できる電磁石の数に物理的な限界があるため、脳に入力(インプット)できる信号が限られています。脳細胞の数は、一説によると一千億個もあるなんて話もあります。数多くの神経細胞に対して、意味のある情報を外部の機械装置からインプットしようと思ったら、もしかすると億単位の数の電磁石が必要になってくるかも? という雲行きなのです。それはいくらなんでも、物理的に不可能と思って、最初から諦めてかかっていたら、研究は前に進みません。私の父にオネダリして検討してもらったところ、ポラリトロニック・デバイスが脚光を集める可能性が見えてきました。

 この装置について解説するには、まず、ポラリトンとは何かを説明しなくてはなりません。一般に光はフォトン(光子 光の粒子)と呼ばれることがあります。フォトンは、アインシュタインの光量子仮説から生まれた言葉で、光の粒子性から仮想されている、あくまでも仮説の上の空想の存在です。この宇宙には、物質がまったく存在しない完全な真空になっている場所はないと考えられています。したがって、星々の間の空間を伝わる光は真空中を伝わっているわけではなくて、希薄な電離した状態(プラズマ)のガスの中などを伝わってきているのです。光のエネルギーの波が物質の中に入ると、物質を構成する原子などの微粒子が、影響を受けて波打つように揺れ動きます。光の波と物質の波が、お互いに電気と磁気の力のやり取りするため、波が混ざり合った状態になって、エネルギーが伝わっていきます。その影響で、波の力が弱まったり、屈折したり、伝わる速度が遅くなったりするのです。このエネルギーの波は、波動性の他に、粒子のような振る舞いをすることがあります。光と物質が混合した状態の粒子をイメージすることができるのです。この仮想の粒子は光子(フォトン)ではなく、ポラリトンと呼ばれています。ここでは分かりやすくするために、仮に光物子(ポラリトン)と書くことにしましょうか。

 光の粒子と物質が混ざった状態のポラリトンは、混ざる物質の状態の変化に応じて、伝わる速度が早くなったり遅くなったりします。この現象をうまく利用すると、光物子(ポラリトン)が物体の中を通過する速度をコントロールして、信号を制御できることになります。液晶は、光(本当は光物子)を通したり通さなかったり、という制御ですが、ポラリトロニック・デバイスは、光物子のパルス信号の伝達速度を変えるので、見かけ上は、光物子(ポラリトン)の状態で光の信号を物質の中に一時的に閉じ込めたり、取り出したり出来ることになります。このことに最初に気付いたのは、ハーバード大学の物理学科と天文学科の2つの研究チームで、273.15度にまで冷やしたナトリウムなどのガスの中にレーザー光線を当てるとポラリトン(光のパルス信号)の伝達が速くなり、レーザー光線を当てないと伝達が遅くなる基礎実験などによって、光の信号を物質の中に5百から千マイクロ秒保存できることを、2000年から2001年にかけて明らかにしたのです。本当は、この実験がネイチャーなどの科学雑誌で紹介される前から、気体をプラズマ化する研究を通して、すでにポラリトロニック・デバイスの開発は進んでいたのですが、非公開の産業機密の話をここでしても仕方ないので、科学技術史上は、この年に論文が世に出て、量子コンピューターの開発に応用できるのではないかと話題になった、ということにしておきます。


 さて、このポラリトロニックの技術と、プラズマ化した機能性流体を制御する技術を組み合わせると、微小な電磁石を、散逸構造生成によって機能性流体の中に、無数に規則正しく発生させて、脳を磁気刺激することが可能になってくるのです。そうすると、最初に書いた、経頭蓋磁気刺装置を頭の周囲に億単位の数配置して制御することも、夢ではなくなりそうなのです。億単位の数の電磁石なんか作れるわけがないと思う人も多いでしょうが、手作業や工作機械で作っていくわけではないところがミソです。多細胞生物はこれと同じことを実現しています。人間の体は、散逸構造生成によって、億単位の細胞を自己組織化することで成り立っています。散逸構造生成は、なにも生物だけの専売特許ではなく、人の手で容易にコントロールできるありふれた物理現象です。簡単な例は、お味噌汁の中や太陽の表面に生まれるベナール対流の模様などの形で観察することも出来ます。エネルギーと物質の代謝サイクルを適切に構成していけば、望みの散逸構造を一気に大量に生成して、自己組織化させて、制御することが可能になるのです。

 ここまで脳に対して磁気刺激を与えることを中心に書いてきましたが、じつは人間の脳は、電磁波(光)に反応する性質を持っていて、いろいろ入出力可能ではないか、と考えています。人間の体は不思議なもので、掌のツボなどを押して刺激する代わりに、ツボに弱いレーザー光線などを当てても反応します。強い光なら手の表面の温度が上昇するので、刺激を感知出来て当たり前です。でも、熱を感じないようなレベルの光の刺激に対しても、反射ゾーン(ツボ)に対応した反応が見られるのです。目のない単細胞生物でも、光が来る方向に移動する走光性を示すので、人間の体の細胞が光にまったく反応しないってことは、逆に考えにくいと思います。人間は足でも光を感じることができて、適度に太陽光線を当ててやると、免疫機構に良い影響が認められる、といった研究が発表されたりしているのです。目という光を感じる器官は、脳細胞が変化して発達したものです。このことから、目が作られる前の段階にあった脳細胞にも、もともと光(電磁波)に反応する性質が備わっていたからこそ、目という器官へと脳の一部が発展していくことができた可能性があるのです。そうなると、脳を構成する物質と光の波が混ざった光物子(ポラリトン)の状態で起こる相互作用について、量子力学的な視点からも考えてみる必要がありそうです。気功や遠当てや私もよく使う手かざしといった、相手の体に接触しない状態で影響を与える技術の正体が、まだよく分かってない部分があります。もしも、電磁的な変化が人の脳や神経から他の人に伝達されていると仮定すれば、説明は楽になります。

 それだけではなく、物理的領域の因果的閉包性の問題を解決できる量子脳理論とも繋がっていきそうなので、真相を確かめる実験をしたくてウズウズしています。もしも、人間を取り巻く物理現象が因果的に閉じていて、未来が全部最初から確定しているなら、人間が自分の意思で物事を考えて判断して行動する意味はなくなってしまいます。最初から失恋する未来が物理現象として確定しているのに、女の子にアタックする男の子なんていませんよね。未来が分からないから、自分の意思で考えて決断して行動しているのです。ところが、そんな考えそのものも、脳の中の物理現象にすぎなくて、最初から脳が出す答えさえ決まっているとしたら? 未来は、全て予め物理的に定まっていて、自由意志など錯覚にすぎないってことになります。この説は本当に正しいのでしょうか?

 人間の脳の情報処理過程を観察していると、どう見ても、自由意志を持って考えて答えを導き出す活動をしているとしか見えません。人間は、物理現象が因果的に開いている、未来が定まっていない環境に生きているとしか思えないのです。動物は、遺伝子が用意した、本能的な定まった確定的な判断だけでは処理しきれない、因果的に開いた不確定な未来を持つ現実に生きているからこそ、意識が発達して、考えて判断をするように進化してきたのです。決して、本能(プログラム)だけで行動している機械のようなものではないのです。

 でも、ニュートンが考えていた時代の、因果関係がドミノ倒しのように連なって物事が起こっていく物理現象の世界は、因果的に閉じたものと考えるのが大前提です。そうでないと古典物理学は成り立ちません。なぜ、生物が生きる環境が、物理学の世界とは異なる、因果的に開いた不確定な未来が存在する状況になっているのか説明するには、量子力学の考え方を持ち出すしかありません。量子脳理論は、この難問を解く重要な鍵なのです。現象判断のパラドックスは、生物の散逸構造が自己組織化されていく、エネルギー・物質・情報の代謝サイクルのモデルを考えれば、ほぼファイナルアンサーを示すことが出来ます。でも、脳がポラリトンの状態になって動作している可能性の考察抜きでは、因果的に閉じている・開いているという議論は、成り立ちそうもない部分があると感じます。

 ポラリトロニック・デバイスを作って、プラズマ化した機能性流体の中に、膨大な数のレーザー発信器を生成して、人間の脳との間に電磁的な相互作用を作り出せれば、この答えは自ずと見えてきそうです。量子脳理論とポラリトロニック・デバイスを巡る研究はこれからが本番です。でも、産業機密の領域になっちゃうので、これ以上のことは、ここには書けません。