歴史ロマンを探求する妨げになっている、古墳整備に対する考え方の問題点

 邪馬台国はどこにあったかという、日本古代史の一大テーマは、歴史ロマンの花形のような観があります。この論争を大きく左右する可能性がある、箸墓古墳などの発掘調査を宮内庁が認めない姿勢を取っているようです。この問題について国会で、共産党衆議院議員吉井英勝氏が宮内庁と答弁したのですが、その内容がまるで国会漫才になっているようなのです。

 『宮内庁と共産党の国会漫才(あるいは宮内庁の反知性主義について)』と題して、このことにブログで言及なさっている方がいて、興味深く読ませて頂きました。「陵墓の静安と尊厳の保持」を理由に、古代史上の重要な研究を許さないのはおかしい、という主旨なんですね。

 多くのコメントが付けられていましたが、その中で、宮内庁を擁護する下のような意見が登場しました。

>学術的、社会的必要性が遺跡破壊のデメリットより上回る場合においてのみ発掘を行う

 これって、もっともらしい意見のように見えながら、発想が不自然だと思うんですよね。たしかに、発掘したら掘り出したものを全部お墓から持ち去ってしまい、博物館に展示して元に戻さないケースがあります。エジプトのお墓から持ち去られて、大英博物館に展示されているものを、エジプト政府が返還するように要求しているケースもあります。考古学的な調査を実施すると、遺跡を破壊する、実質墓荒らしにしか見えない結果になるケースもあったようです。でも、現代の日本で、そんなマナーの悪いお墓参りをする人は、まずいないと思います。

 自然界の環境などは、ホメヲスタシスを上回るところまで人が手を加えてしまうと、自己回復不可能なダメージを与えて、自然破壊を招くこともありますが、今話題にしている対象は、古代の人工物です。人が造った物なら、とうぜん元通りに復元できます。たとえば、うちの一族が手分けして管理している幾つかの神社では、補修作業を行う必要に迫られることがあります。昔の技法を一族の者で分担して伝承しているので、古い時代のオリジナル部分と見分けがつかないように補修・復元しています。何年か前に、台風で銅屋根が破損した建物があったのですが、修理しようとしたら、飾り付けの部分などに七宝焼きが使われていて、一族の者が誰も伝承していない技術だったため、私が趣味の七宝焼きの知識をもとに、古い時代の泥七宝の技法を、一週間以上かけて復活させたことがあります。習得に数十年を要する職人の技も、現代の発達した技術を駆使すれば、短時間で再現可能なケースが多いのです。

 古墳は本来、樹木が生い茂った状態で放置してはいけないものです。松などの樹木は、岩石を溶かして破壊して養分に変える成分を根から分泌しながら、ほとんど土がないような断崖絶壁などにすら根を張って、岩を割りながら巨木へと成長していきます。古墳に樹木が生い茂ると、長い年月をかけて、もっとも守らなくてはならない石室の石組みを破壊する問題などが生じることもあるので、定期的に手入れをしていく必要があるのです。うちの一族が管理している円墳で、樹木が茂っているものなど皆無なのは、こうした理由があるからです。

 皇室の祖先が埋葬されているとされる古墳を、なんの手入れもせずに放置しておいて、「陵墓の静安と尊厳の保持」を主張しても、それは口先だけの口実で、実質的には古墳の維持に必要不可欠な適切な整備すら行っていないのですから、職務怠慢と受け取られかねない状況にあると思います。皇祖に対して失礼極まりない状態になっているように見えます。お墓の手入れをしないことが正しいなんて話は、聞いたことがありません。

五色塚古墳 前方部から後円部を眺めたもの
 そこで、ひとつの提案ですが、皇室のお墓参りを理由に、古墳を整備していってはどうでしょうか。皇室のかたがたが通るというだけで、道路が舗装しなおされることはよくあります。でも、その直後に水道工事を一回やれば、道路はまた継ぎ接ぎの状態になります。無駄な道路舗装などしないで、その予算を古墳の整備に回していったほうが、後世に残る仕事になると思うんですけどね。公費で古墳を復元整備した例としては、五色塚公園があります。神戸観光壁紙写真集の『五色塚古墳・古墳と埴輪 神戸の古代遺跡 壁紙写真』へのリンクを張っておきます。葺き石が太陽の光を受けて五色に輝くところから名付けられたとされる古墳で、グーグルマップで航空写真を拡大して見ても綺麗に整備されていることが分かります。本来、古墳はこのように樹木が生えていない姿をしているべきなのです。
明石海峡大橋のライトアップと舞子の夜景

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 現在の五色塚古墳の姿を見て、墓荒らしにあったと感じる人はほとんどいないでしょう。たしかに、下に高貴な人が葬られているのに、みだりに古墳に登って足で踏みつけるのは不敬と考える人もいると思います。後日詳しく触れる予定ですが、古墳の元型は、日本・朝鮮半島満州・モンゴル・チベットなどに広く分布して痕跡を残している、オボ(塚)信仰です。もちろん、祭祀の作法は、現在でも各地に伝承されて残っています。古墳を正しく参拝できるように、シキタリも含めてお墓として復元すれば、何の問題も起きないのです。今の箸墓古墳の、木がうっそうと生えた状態を見て、お墓とみなして参拝したいと思う人はほとんどいないと思います。お墓らしく綺麗に整備することは、管理者のつとめでしょう。